穴だらけの森 1

 

あるところに、

穴だらけの森がありました。

 

 

 

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あるとき、

りすが落ちました。

 

 

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たぬきが落ちました。

 

 

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きつねが落ちました。

 

 

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さるが落ちました。

 

 

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くまも落ちました。

 

 

 

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落ちないように頑張りましたが、

やっぱり落ちました。

 

 

 

 

それから、

にんげんの猟師が落ちました。

 

 

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穴の中は、迷路になっていました。

 

 

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みんな、無事に外へ出られるかな。

 

 

 

 

1-001-015.はじまりの歌

 

生きることに価値があるのなら
生かすことはもっと価値がある

 

あなたの生を願うから

 

石よりも硬い決意で
使命を果たそう

 

心安らかな日々が
訪れるように

 

私たちの悪夢が
始まらないように

 

 

眠り子を起こしてはならない
夢を見ているのだから
穏やかな久遠の夢を

 

 

もしも悪夢が目覚めたら
時間は逆転し
歴史はループするでしょう

 

未来は不変となり
過去は不安定になるでしょう

 

 

もしも悪夢が目覚めたら
大気は氷結し
鋼鉄は沸騰するでしょう

 

化学と文学は入れ替わり
全ての公理は混沌に沈むでしょう

 

 

世界とはささやかな可能性の集合
その一つが崇高なものへと続いている

 

他の全てが破滅だとしても
恐れなくていい

 

私たちは答えを知っている

 

それは子守唄に似て
不安を退け
悲しみを遠ざけて

 

最も困難な道を進む力をくれる

 

 

愛しい人よ

 

千年続く歌声で
万夜のハミングを刻もう

 

心地よさが
覚醒を遠ざけるように

 

妙なる調べが
深淵を呼び寄せるように

 

 

混沌を抜け
深い眠りから
解き放たれたとき

 

夜明けが訪れていますように

 

新しい希望がありますように

 

 

さあ 始めよう

 

 

 

 

 

(第一章 プロローグ 終わり)

 

1-001-014.朧月夜の、初陣 12


ゴゥッ…!
 
その時、火球が二人の間を引き裂くように飛び去って行った。
振り向くと、さっきの敵が再び迫っていた。
マドカは、殺意をぶつけられたように感じて、さっと血の気が引いた。
(油断、してた───もし今のが当たっていたら…)
 
やっぱり、訓練とは違う…。
 

クルスは、全く別のことを考えていた。
(なんだ今の…あれでも狙って撃ったのか?)
(マドカ達の方がマシじゃないか)

 
そして、瞬時に理解する。

(こいつら、練度が低いぞ)
(そうか、だから夜襲なのか)
 
闇の中での戦いは、力任せの格闘戦になる。
それなら、熟練度は(あまり)関係ないのだ。
 
”戦法の定まっていない新兵器で、弱小基地を攻める”
”練度の低い兵で、夜襲をかける”
 
さらに、ずっと感じていた、ちぐはぐな感じ…
全体的に、連携が取れてないような。
 
(試験と訓練か…!)
そう、クルスは見抜いた
 
数では圧倒的に不利だが、そういうことならチャンスはある
 
「マドカ、先に行け!」
「えっ…!」
「こいつら、大したことない!俺とロナで大丈夫だ!行け!」
 
マドカは、一瞬どうしていいか分からなかったが、
(一緒にいたら、わたしを守って、隊長が死ぬ)
(そのあと、逃げられなくてわたしも死ぬ)
 
そんなシナリオがぱっと浮かんできて、一気に暗い気持ちになった。
(そうだわ、クルス隊長が正しい)
 
「了解…!先に、行きます!お、お気をつけてー!」
方向転換しながら、クルスはそれには答えず、一言、
「南だ!」
 
さらに、

生き延びろよ!…バスビオス(突撃)!」
 
そう叫んで、敵ドラゴンの方へ突進していった。
 
 
 

マドカはふいに、強烈な不安感に襲われた。
(このまま、もう会えないかもしれない…?)
 
あの後ろ姿が、見納めになるかもしれない───
 
それで、加勢に行くかどうか迷ったが、
やっぱり、クルスの命令を守ることにした。
 
「オルク…行くよ!アロォー(進め)!」
 
 
 
いつの間にか夜は明けて───月は、雲に隠れていた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

(暗転)
 
 

1-001-013.朧月夜の、初陣 11


マドカは、その様子を見ていた。
 
クルス達が吹き飛ばした荷車と、積荷である砲弾の爆発
砲弾のいくつかは、爆発せずにバウンドし、
”巨人”の足元まで転がっていった。
 
(あ…!、あれを、爆発させれば…!)
 
クルス隊長に伝えようと思ったが、離れ過ぎている。
しかも、何頭かの敵ドラゴンが、”巨人”のすぐ近くまで戻って来ていた。
迷ってたら間に合わない!と思ったら、ほとんど反射的に命じていた。
 
「ビアット(高速形態)!」
どれを狙うかは、”ビジョン”でオルクに伝えた。
 
思い切りジェットを吹かして、全力で急降下!
脈拍が一気に跳ね上がったが、マドカは前方に集中した。
 
こういうのは、訓練でやったことがある…!
(近付き過ぎないようにしなきゃ…!)
(今だ!)
「サッファ(小火球)ァ!」
 
見たこともないスピードに、
動揺する敵ドラゴン達。
その間をかいくぐり
通り過ぎざま、火球を放つ!
 
命中───!
 
砲弾は、閃光を発して大爆発を起こした。
意識まで吹き飛ばされそうな凄まじい爆音に襲われて、一瞬、
無音の世界になる。
オルクの身体が陰になってくれなければ、失聴していたかもしれない。
爆風にあおられてひっくり返ったが、そのまま飛び続け、
全速力で通り抜ける。
オルクが、全身を引きちぎられそうな痛みに苦痛の叫びを上げたが、
それは、”ビジョン”を通して聞いた叫びだったかもしれない。
 
再び音の世界が戻って来る。
 
「ノー…マ(通常形態)!」
スピードを緩め、高度をとって、後ろを振り返る。
 
土煙に覆われて、”巨人”のダメージは定かでない。
しかし、足元に空いた大穴が、”巨人”のバランスを崩した。
倒れる───!
それだけでなく、メキメキと音を立て、支柱が曲がっていく。
自重に耐えきれなかったのか、
これまでの攻撃で、少しはダメージがあったのか。
 
そして───
 
そのあとの様子は、マドカは見ていない。
敵が集まってきて、それどころではなくなってしまったから。
 

敵のドラゴンが火球を撃ってきて、オルクがそれを避けた
見回すと、何頭かのドラゴンがこちらに向かっていた。
 囲まれる!
「アロォー(進め)!」

手綱を繰ることはせず、回避運動はオルクに任せておいて、
クルス、というよりロナを、探す。
 

空は灰色の雲に覆われて陽の光は見えなかったが、
辺りはすっかり早朝の光に包まれている。
いつもなら広く感じる空だが、低く垂れこめる雲のせいか、それとも
あちこちを飛ぶ敵ドラゴンのせいか、今はとても狭く感じてしまう。
 
火球が走った。
(あれだ!)
 
急接近しながら、敵ドラゴンへ向かって牽制の火球を撃たせた。
2対1で不利になるのを嫌った敵は、一旦離れていった。
マドカ達は、すかさずクルス達に近付いて行く。
 
「やったな!アイツを倒したぞ!」
クルスが親指を立てて合図を送ってきたので、マドカは真っ赤になった。
何か答える代りに、拳を握って軽く突き上げて見せた。
 
クルスはすぐに声のトーンを変えて、叫んできた。
「退却する!南へ向かえ!」
「えっ…み南!セオドナは…!」
「セオドナは放棄された!」
「放棄…!」
 
「俺たちは、これから、南のカールゼロナ砦を目指す!!」

 
 

1-001-012.朧月夜の、初陣 10


セオドナ基地が陥落した…
 
敵の地上部隊からの攻撃を受けたのか。
あるいは、ドラゴンかもしれない。
あるいは、先の砲撃で大損害を受けたのか。
味方の第一部隊は、どうしたのだろう。騎兵は、歩兵は。
 
(いやいや待てよ…)
 
原因はともかく、ちょっと早過ぎないか?
と思ったが、すぐに思い至ることがある。
(さてはブリ公だな…!)
司令官が負傷でもして、ブリケインが司令官代理になったのだろう。
そして、基地からの撤退を即断したのだろう。
 
(臆病者め)
 
しかし、臆病が幸いしたかもしれない。
どちらにせよセオドナ基地は陥落していただろうし、
今すぐに撤退を開始すれば、被害も少なくて済むだろうから。
森に潜みながらの逃避行は大変だが、追う方も大変だ。
今なら逃げる時間に余裕がある…
 
(で、俺たちはどうするか)
撤退する部隊の護衛についてもよいが、敵から見つかりやすくなって、
かえって迷惑かもしれない。
 
だから、独自に撤退する、というのがクルスの決断だった。
ただし、基地にいる本部隊の撤退を手助けするためにも、
今ここで出来る限り暴れておいて、少しでも敵の進撃を妨害してからだ。
 
 
そう決めるとクルスは、長く伸びた敵の隊列を眺めた。
手当たり次第にあちこち分断してやるかと考えた、その時。
気になるものが視界に入った。
(…あれは?)
木々の隙間にちらりと見えた、数台の荷車が連なって、何かを運んでいる。
ひと抱え以上の大きさの…あれは、砲弾を運ぶ部隊だ!
 
(あれをやれば、次の砲撃は阻止できるぞ!!)
(つーか、あんなデカいのか…)
 
 
運搬部隊はすぐまた葉茂りの間に隠れてしまったが、
もう少したてば木々のトンネルを抜けて、岩場のところに出てくるはずだ。
 
しかし、それを待ち構えている余裕はなさそうだった。
遠くの方に、敵の竜騎兵部隊が戻ってくるのが見える。
三騎、四騎…いや、もっといるだろう。
第一部隊は、全滅したのだろうか…
 
こっちも早く逃げないと、脱出の機会がなくなる。
一瞬迷ったが、意外に早く運搬部隊の姿が見えたので、決断した
 
ぴゅぅっ!と指笛で注意を引いて、
「マドカ!援護しろ!!」
 
応答も待たずに急降下する。
(一撃で仕留める!)
「サッファ(小火球)!」
 
火球はうまく荷車に命中した。爆発が予想以上に大きかったのは、
衝撃のせいで砲弾も一緒に爆発したからだ。
火炎とともに吹きあがった黒煙は薄明の空へ消えてゆき、
粉々になって吹っ飛んだ荷車の破片と、
地面に空いた大穴だけが、後に残った。
 
そこら中から黒煙が上がり、火薬の匂いが立ちこめる。
それへ、周囲の草木に火がついて、白煙が混じりこむ。
 
これから敵の地上部隊は、負傷者の救護はもちろん、消火作業や、
燃え残った火薬の撤去作業に追われる事になるだろう。
少しは時間稼ぎになったはずだ…。
 
(よし!)
 

空中に目を転じると、敵の竜騎兵部隊が迫っているのが見えた。
もうすぐ火球の射程に入るだろう。
 
クルスは、すぐに頭を切り替えた。
これから最優先にすべきことは、
 
生き延びることだ!