1-001-014.朧月夜の、初陣 12


ゴゥッ…!
 
その時、火球が二人の間を引き裂くように飛び去って行った。
振り向くと、さっきの敵が再び迫っていた。
マドカは、殺意をぶつけられたように感じて、さっと血の気が引いた。
(油断、してた───もし今のが当たっていたら…)
 
やっぱり、訓練とは違う…。
 

クルスは、全く別のことを考えていた。
(なんだ今の…あれでも狙って撃ったのか?)
(マドカ達の方がマシじゃないか)

 
そして、瞬時に理解する。

(こいつら、練度が低いぞ)
(そうか、だから夜襲なのか)
 
闇の中での戦いは、力任せの格闘戦になる。
それなら、熟練度は(あまり)関係ないのだ。
 
”戦法の定まっていない新兵器で、弱小基地を攻める”
”練度の低い兵で、夜襲をかける”
 
さらに、ずっと感じていた、ちぐはぐな感じ…
全体的に、連携が取れてないような。
 
(試験と訓練か…!)
そう、クルスは見抜いた
 
数では圧倒的に不利だが、そういうことならチャンスはある
 
「マドカ、先に行け!」
「えっ…!」
「こいつら、大したことない!俺とロナで大丈夫だ!行け!」
 
マドカは、一瞬どうしていいか分からなかったが、
(一緒にいたら、わたしを守って、隊長が死ぬ)
(そのあと、逃げられなくてわたしも死ぬ)
 
そんなシナリオがぱっと浮かんできて、一気に暗い気持ちになった。
(そうだわ、クルス隊長が正しい)
 
「了解…!先に、行きます!お、お気をつけてー!」
方向転換しながら、クルスはそれには答えず、一言、
「南だ!」
 
さらに、

生き延びろよ!…バスビオス(突撃)!」
 
そう叫んで、敵ドラゴンの方へ突進していった。
 
 
 

マドカはふいに、強烈な不安感に襲われた。
(このまま、もう会えないかもしれない…?)
 
あの後ろ姿が、見納めになるかもしれない───
 
それで、加勢に行くかどうか迷ったが、
やっぱり、クルスの命令を守ることにした。
 
「オルク…行くよ!アロォー(進め)!」
 
 
 
いつの間にか夜は明けて───月は、雲に隠れていた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

(暗転)