1-001-013.朧月夜の、初陣 11


マドカは、その様子を見ていた。
 
クルス達が吹き飛ばした荷車と、積荷である砲弾の爆発
砲弾のいくつかは、爆発せずにバウンドし、
”巨人”の足元まで転がっていった。
 
(あ…!、あれを、爆発させれば…!)
 
クルス隊長に伝えようと思ったが、離れ過ぎている。
しかも、何頭かの敵ドラゴンが、”巨人”のすぐ近くまで戻って来ていた。
迷ってたら間に合わない!と思ったら、ほとんど反射的に命じていた。
 
「ビアット(高速形態)!」
どれを狙うかは、”ビジョン”でオルクに伝えた。
 
思い切りジェットを吹かして、全力で急降下!
脈拍が一気に跳ね上がったが、マドカは前方に集中した。
 
こういうのは、訓練でやったことがある…!
(近付き過ぎないようにしなきゃ…!)
(今だ!)
「サッファ(小火球)ァ!」
 
見たこともないスピードに、
動揺する敵ドラゴン達。
その間をかいくぐり
通り過ぎざま、火球を放つ!
 
命中───!
 
砲弾は、閃光を発して大爆発を起こした。
意識まで吹き飛ばされそうな凄まじい爆音に襲われて、一瞬、
無音の世界になる。
オルクの身体が陰になってくれなければ、失聴していたかもしれない。
爆風にあおられてひっくり返ったが、そのまま飛び続け、
全速力で通り抜ける。
オルクが、全身を引きちぎられそうな痛みに苦痛の叫びを上げたが、
それは、”ビジョン”を通して聞いた叫びだったかもしれない。
 
再び音の世界が戻って来る。
 
「ノー…マ(通常形態)!」
スピードを緩め、高度をとって、後ろを振り返る。
 
土煙に覆われて、”巨人”のダメージは定かでない。
しかし、足元に空いた大穴が、”巨人”のバランスを崩した。
倒れる───!
それだけでなく、メキメキと音を立て、支柱が曲がっていく。
自重に耐えきれなかったのか、
これまでの攻撃で、少しはダメージがあったのか。
 
そして───
 
そのあとの様子は、マドカは見ていない。
敵が集まってきて、それどころではなくなってしまったから。
 

敵のドラゴンが火球を撃ってきて、オルクがそれを避けた
見回すと、何頭かのドラゴンがこちらに向かっていた。
 囲まれる!
「アロォー(進め)!」

手綱を繰ることはせず、回避運動はオルクに任せておいて、
クルス、というよりロナを、探す。
 

空は灰色の雲に覆われて陽の光は見えなかったが、
辺りはすっかり早朝の光に包まれている。
いつもなら広く感じる空だが、低く垂れこめる雲のせいか、それとも
あちこちを飛ぶ敵ドラゴンのせいか、今はとても狭く感じてしまう。
 
火球が走った。
(あれだ!)
 
急接近しながら、敵ドラゴンへ向かって牽制の火球を撃たせた。
2対1で不利になるのを嫌った敵は、一旦離れていった。
マドカ達は、すかさずクルス達に近付いて行く。
 
「やったな!アイツを倒したぞ!」
クルスが親指を立てて合図を送ってきたので、マドカは真っ赤になった。
何か答える代りに、拳を握って軽く突き上げて見せた。
 
クルスはすぐに声のトーンを変えて、叫んできた。
「退却する!南へ向かえ!」
「えっ…み南!セオドナは…!」
「セオドナは放棄された!」
「放棄…!」
 
「俺たちは、これから、南のカールゼロナ砦を目指す!!」