1-001-012.朧月夜の、初陣 10


セオドナ基地が陥落した…
 
敵の地上部隊からの攻撃を受けたのか。
あるいは、ドラゴンかもしれない。
あるいは、先の砲撃で大損害を受けたのか。
味方の第一部隊は、どうしたのだろう。騎兵は、歩兵は。
 
(いやいや待てよ…)
 
原因はともかく、ちょっと早過ぎないか?
と思ったが、すぐに思い至ることがある。
(さてはブリ公だな…!)
司令官が負傷でもして、ブリケインが司令官代理になったのだろう。
そして、基地からの撤退を即断したのだろう。
 
(臆病者め)
 
しかし、臆病が幸いしたかもしれない。
どちらにせよセオドナ基地は陥落していただろうし、
今すぐに撤退を開始すれば、被害も少なくて済むだろうから。
森に潜みながらの逃避行は大変だが、追う方も大変だ。
今なら逃げる時間に余裕がある…
 
(で、俺たちはどうするか)
撤退する部隊の護衛についてもよいが、敵から見つかりやすくなって、
かえって迷惑かもしれない。
 
だから、独自に撤退する、というのがクルスの決断だった。
ただし、基地にいる本部隊の撤退を手助けするためにも、
今ここで出来る限り暴れておいて、少しでも敵の進撃を妨害してからだ。
 
 
そう決めるとクルスは、長く伸びた敵の隊列を眺めた。
手当たり次第にあちこち分断してやるかと考えた、その時。
気になるものが視界に入った。
(…あれは?)
木々の隙間にちらりと見えた、数台の荷車が連なって、何かを運んでいる。
ひと抱え以上の大きさの…あれは、砲弾を運ぶ部隊だ!
 
(あれをやれば、次の砲撃は阻止できるぞ!!)
(つーか、あんなデカいのか…)
 
 
運搬部隊はすぐまた葉茂りの間に隠れてしまったが、
もう少したてば木々のトンネルを抜けて、岩場のところに出てくるはずだ。
 
しかし、それを待ち構えている余裕はなさそうだった。
遠くの方に、敵の竜騎兵部隊が戻ってくるのが見える。
三騎、四騎…いや、もっといるだろう。
第一部隊は、全滅したのだろうか…
 
こっちも早く逃げないと、脱出の機会がなくなる。
一瞬迷ったが、意外に早く運搬部隊の姿が見えたので、決断した
 
ぴゅぅっ!と指笛で注意を引いて、
「マドカ!援護しろ!!」
 
応答も待たずに急降下する。
(一撃で仕留める!)
「サッファ(小火球)!」
 
火球はうまく荷車に命中した。爆発が予想以上に大きかったのは、
衝撃のせいで砲弾も一緒に爆発したからだ。
火炎とともに吹きあがった黒煙は薄明の空へ消えてゆき、
粉々になって吹っ飛んだ荷車の破片と、
地面に空いた大穴だけが、後に残った。
 
そこら中から黒煙が上がり、火薬の匂いが立ちこめる。
それへ、周囲の草木に火がついて、白煙が混じりこむ。
 
これから敵の地上部隊は、負傷者の救護はもちろん、消火作業や、
燃え残った火薬の撤去作業に追われる事になるだろう。
少しは時間稼ぎになったはずだ…。
 
(よし!)
 

空中に目を転じると、敵の竜騎兵部隊が迫っているのが見えた。
もうすぐ火球の射程に入るだろう。
 
クルスは、すぐに頭を切り替えた。
これから最優先にすべきことは、
 
生き延びることだ!