1-001-011.朧月夜の、初陣 9

───ドラゴンは、乗り手を選ぶことがある。
 
そのようなドラゴンは、
選んだ乗り手の意図を察知することに長けている、と言われる。
そして、乗り手の側も、ドラゴンの感じていることが分かるという。
両者の間には、なにか不思議なつながりがあるらしい。
 
マドカは、そうしたつながりを、より確かに感じることがあった。
それは、心の奥底にある領域で、オルクとつながっている、感覚
その領域を通して、他の竜使いには出来ないことができる。
 
種族を越え言葉を越えて、より確かに意思を伝える───”ビジョン”
 
そして、つながりが強ければ、影響も受けやすいのかもしれない。
 
今、基地を守るために、”巨人”を破壊しなければならない。
とはいえ、近付くことすらマドカには恐ろしいことだった。
それが敢えて”巨人”へ向かっていくよう命じたのは、
オルクの闘争心にあてられたせいかもしれない。
 
それに、クルスに認めてもらいたいという気持ちも、あったろうか…。
 
 

「サッファ(小火球)!」
矢の雨をかいくぐって放った火球が”巨人”の支柱に当たったが、
爆発の衝撃で少し揺れた程度。
旋回して少し高度をとり、今度は台車を狙ってみる。
「ラーダ(狙え)!…モンドゥ(強火球)!
ぶるっ、と反動を生むほどの勢いで、オルクは大きな火球を発射した。
それは”巨人”の背中に当たって、どぉん!と大爆発を起こし、
周囲を真っ赤に照らし出した。
兵士たちが逃げ惑う姿が浮かび上がる。
しかし、”巨人”が意に介した様子はなかった。
(ダメだわ、ドラゴンの火が効かない!石で出来てるみたい?!)
 
どこから湧いてくるのか、敵兵はどんどん増えていき、
飛んでくる矢の数も増えてきた。
マドカとクルスは合流して、いったん上空へ退いた。
 
 
いつの間にか、空に薄明かりが差していた。
夜が、明け始めているのだ。
 

クルスは、遠くの方まで見渡してみて驚いた。
敵が、意外な大軍なのである。
 
隊列を組むのもままならない森の中の道なき道を、
大岩や倒木を迂回したり、ぬかるみに板を渡したりして、
かなり難儀している様子が見て取れる。
 
それが、延々と森の奥の方まで続いているのだ。
 
(こいつら、なんなんだ…)
(なんだってこんな辺境の基地に)
(こんなところ、拠点になんかならんだろうに)

ふいに気付いて、クルスはぞっとする。
この大軍に攻め込まれたら、セオドナはもたないだろう…と。
 
素早く考えを巡らせる───
すぐに帰還して皆に知らせるべきだ、先にマドカとオルクを向かわせよう、
ジェットドラゴンなら、少しでも早く基地へ辿り着けるだろうから───
 

その時、ふと、異変に気付く。
 
基地の方から、狼煙が上がっている。
滅多に見ない色で、とっさに意味が分からなかったが───
 
キチヲホウキスル
 
(な…!)
(しまった、基地をやられたか!)