1-001-009.朧月夜の、初陣 7


人影…と見えたが、人型ではない。
ただ、何か巨大な、動くもの…である。
よく見ると、ぼんやり光っているように見える。
 
驚くのはその大きさで、
遠くにポツンと見えるだけだが、それでも
周囲の木々の、何倍もの高さがある…!
 
(なんだありゃ…)
(あんなもの、昼間はなかったぞ…!)
 
敵が攻めてきた方角だ。
(敵なのか?ま…敵、だろうな)
 
 
 
オオオォ~~~ン………
 
そのとき、低く、かすかな遠吠え…が聞こえてきた。
(巨人が…鳴いてる…!?)
 

あっと思った時、
”巨人”の頭(?)の部分が赤く光って
一瞬、何かが飛び出していくのが見えた。
遅れて、ド、ズン、という音が響いてくる。
 
ちらちらと微かに光るものが、クルス達の遥か上空を、
流れ星のように飛び越えていく───!
 
(うぉ、おぉぉ…大砲か!)
 
砲弾は真っ直ぐ飛んで行って、セオドナ基地の少し手前に落ちた。
そして、爆発!…しない。不発弾だろうか。ほっとする。
 
それにしても、なんという飛距離だろう!
破壊力も相当ありそうだ。
あんなもので攻撃を続けられたら、セオドナのような小基地など、
たちまちのうちに廃墟同然にされてしまうだろう。
 
(なんってデカイ大砲なんだ!)
(やつら、あんなもの造っていやがったのか…!)
 
破壊しなければ!
 
そうクルスは強く思い、すぐにロナを向かわせようとしたが、
マドカを連れていくかどうか迷った。
しかしすぐに、いや迷っても仕方ないと思い直し、一言、問いかける。
「操竜の極意は!」
訓練でもよくやるやり取りである。答えはすぐに返ってきた。
「じ、人竜一体!」
 
正確には、『人竜一体なれば六つの目、二つの頭脳にて臨むなり』という。
うまく呼吸が合えば判断力が倍になって有利だ、ぐらいの意味だろうか。
竜乗りの理想の境地とされる。
 
オルクは負けん気が強くてやんちゃなところがあるが、
慎重な性格のマドカとは、姉弟のようにいいコンビに見える。
(逆に、俺とは合わないだろうな)
 
(まぁ、逃げ回るだけなら、一人前だしな)
と、マドカの操竜術を認めたうえで、クルスは叫んだ。
「お前のドラゴンを信じろ!よし、行くぞ!」
「ハイ!…オルク、行くよ!」
 

”巨人”へ向かいながら、クルスは呟く。
(ロナを休ませてやりたいが…)