1-001-007.朧月夜の、初陣 5


マドカは、少し先をゆくクルス達が突然消えたのでびっくりして、
しばらくその場にとどまっていた。
 
ドラゴン達が吠えあっている声が響いてくる。
 
(戦ってるの…?!)
 
だったら、援護に───
 
 
ゴオッ…!!
 
 
突然、斜め下方から飛んできた火球が近くをかすめ、
その熱量に驚いたマドカは、
(きゃ…!)
思わず悲鳴を上げそうになって身をすくめた。
 
続けて、大きな黒い影が火球を追うように視界を横切っ、
たかと思うと、次の瞬間、
それがマドカ達の前に立ち塞がって、視界を覆った
「ひゃぁぁ…」
マドカは、叫びにもならない情けない声をあげた。
 
 
攻撃される!
 

本能的な恐怖に凍りついた瞬間、強烈な加速を感じた。
それが収まったときには、影の気配は消えていた。
 

(オルクぅ…っ!)

ジェットを吹かして急加速したのだ!
 
助かった、と泣きそうになるのをこらえて、敵の姿を探す。
 
(真下にいる!)
 
相手は、戸惑っている?!
ジェットドラゴンは珍しいので、もしかしたら…
予想外の動きに、突然、消えたように見えたのかも…。
 
だったら、今がチャンスだ!
 
手綱をしならせて鞭のようにビシッ!とオルクの首を打ち、
「フルゥ(下を向け)!…サッファ(小火球)!」
下へ向けて火球を撃たせた。
 

虚空へ消えていく、火の玉───

当たった様子は、ない。
 

敵の影も消えている。
見間違えた、かも…?!
 
(どこ?!)
 
周囲にいるはず!!
 
「サッファ!」
「サッファ!」
「サッファ!」
 
三方へ向かった火球は、いずれも闇へ吸い込まれていく…
敵の姿を照らし出すこともなく。
 
(ど、こ…?!)
 
どっと汗が噴き出してくる。
呼吸も荒くなる。
 
闇の向こうから、狙われている…不安感は増すばかり。
 
オルクは、無駄弾を撃たされるのが嫌なのか、クァ…と鳴いて、
勝手に旋回飛行を始めてしまった。
回避運動になってちょうどいい、と思ったので、
オルクの好きにさせておく。
 
(多分、撃たれる…撃たれる…どこから?)
(撃ってきたら、その出所に向かって、こっちも撃ち返せばいいんだ…)
 
マドカは、周囲の闇に目を凝らした…
 

どおん、と音がして、突然、突き上げられるような衝撃に襲われた。
視界が揺さぶられ、鞍にしがみつく事も出来ず、右に左に激しく振り回される。
(うーーーっ!!)
 
体当たりされた、と気付いたのは、
オルクが反撃にかかってからのことだった。
 
敵の大柄なドラゴンが、オルクの首元に咬みついていた
その凶悪な牙は、ちょうど胸当てに掛っていたので致命傷には
ならなかったが、ぐいと強引にひねられて、為す術なく翻弄される
オルクは怒って、命じられてもいないのに、火球を撃った
それは敵ドラゴンの首筋をかすめて軽い火傷を負わせ、ついでに、
飛び散った炎がオルク自身の顔や翼に降りかかってきた。
敵ドラゴンは思わず口を離して首を引っ込めたが、
また素早く襲いかかってくる。
オルクも首を捻じ曲げて相手に咬みつこうとし、
両者の顎が、正面から激突した
牙と牙がガチン!と打ち合い、お互い顔を仰け反らせる。
しかし互角ではなく、上位を取っている敵ドラゴンの方が有利で、
今度は足の爪を相手の胴に突き立てようとした。
オルクは身をよじって半転し、翼を跳ねあげてそれを逸らそうとした。
巨大な鉤爪はマドカがうずくまる鞍の風防に当たり、一部を砕いて
頭上をかすめていった。
 
 
───マドカは、咄嗟に、見た。
 
  そして 一瞬、
     敵の大柄なドラゴン
       と、
 
    目が 合った。
 
 
無慈悲な凶暴さを宿したその瞳を、
マドカは、怯えた目で見上げるしかなかった…