『人喰い桜』

 

 


今はもうない、ある村の外れに、
一本の桜の木が立っていました。
 
そこへあるとき、
学者を名乗る男が現れて、
その木を調査し始めたのです。
 
村の者はあまりいい顔をしませんでしたが、
男がどうしてもというので
好きにさせておきました。
 
 
 
男は村人に話を聞いたり
桜の木の周囲をぐるぐる回ったりしていました。
 
そんなある晩のこと、
男が泊まっていた宿の女将さんが、
彼がこう呟くのを聞いたそうです。
やはりそうだ、ついに見つけた───と。
 
 
翌日の夕方、男が戻ってこないのを不審に思った女将さんが、
若い人に頼んで男を探しに行かせました。
 
その若い人は桜のところに行き、
そこで男を見つけて震え上がったといいます。
 
そのとき見たものを、その人は一生忘れられませんでした。
 
 
 
男は木の下にうつ伏せになって、
木の根っこの下の空洞に、頭と片腕を突っ込んだ状態で
亡くなっていました。
 
その様子は、男が桜の木に喰われているように見えたそうです。
 
 
 
 

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