『桜祭り』
あるところに、桜の木がありました。
毎年、綺麗なピンクの花が咲く頃に、
その桜の木の下で、
小さなお祭りが行われていました。
あるとき、この桜の木の下で死んだ男がおりました。
男は死んだ後も霊となって現れ、
木のそばで悲しげにたたずんでいるのでした。
村人は気味悪がって、お祭りは中止になりました。
その年、青い桜が咲きました。
次の年も。
その次の年も。
村人たちは考えました。
死んだ男の悲しみが、桜の花を青く染めているのではあるまいかと。
それで、以前のようにまたお祭りを行うことにしたのです。
男の霊を、慰めるように。
お祭りは、青い桜の下で恐る恐る行われましたが、
それなりに賑やかになりました。
お祭りが終わった時、
男の霊は、やっぱり悲しげでしたが、
少しだけ微笑んでいるようにも見えました。
次の年は、うす紫色の桜が咲きました。
男の霊は悲しげに微笑むだけで特に悪さをしないので
村人たちもだんだん慣れてきて、
お祭りは続きました。
歳月が過ぎるにつれ、
男の霊はだんだん薄くなっていき
やがて、ほんの微かに見えるだけになっていました。
そして、最後に見かけたときには、
にっこり笑っていたそうです。
次の年からは、また綺麗なピンク色の桜が咲くようになりました。
お祭りは変わらず続いて、
村人たちは、男の霊をちょっと懐かしむのでした。
その村はもうなくなってしまい、
今では白い桜が咲いているということです。